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「西村さんって、なんかそういうの遭いやすいよね」
「そうかなあ?」
「警察に行った?」
「ううん」
「顔は覚えてる?」
「うーん、黒っぽいニットキャップかぶってたかなあ? 年は若かったと思うんだけど」
ああいうことをしている人の顔はみんな同じに見えてしまう。
同じ? 少し違う、より正確に言おうとすると、「顔がない」に近いかもしれない。
「私だったら警察に突き出してやるよ。彼氏には言ったの」
「ううん」
佐々木さんは、と言うか、ここのスタッフは私が修ちゃんと同棲している事を知っている。
来なくていいと言ったのに、修ちゃんはここに髪を切りに来るのだ。家でもやってあげられるのにと言ったけど、
「いいの。俺が来たいんだから」
と言って毎回ここに来ている。
「ああ。でも修平君に言ったら、それこそ大事になりそうだよね。毎日送り迎えするとか言いそう」
「私もそう思う」
「あたしの彼だったら、すげえ。そんな奴いんの? 見に行く。とか好奇心だけで終らせて心配なんかしないだろうな」
佐々木さんは、またあいつ、パチスロ行ってたんだよ。ありえない。四万も摩りやがって。などと彼氏の愚痴を言い始めた。
ギャンブラーか。それも、「だから、私、病んでます。えへへ」になるかなあ? と佐々木さんの彼氏にかなり失礼な事を当てはめてから、私は仕事にもどった。
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