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「はい、お待たせ致しました。」
私の目の前に、新しい『PRIDE ROUGE』と女性の笑顔があらわれた。
「すみれさん、今夜はもう反省会はおしまいにしちゃいましょうよ。」
女性は、私の顔をのぞき込みながら言った。
「反省会…?」
私は、意味が分からず呟いた。
「そう、人生の反省会。すみれさん、今までの自分を振り返ってらしたでしょう?それも、とても大切なことですけれど。すべてを反省したら、一晩じゃ、きっと誰でも足りないわ。また、反省したくなったらしましょうよ。今は、もう、反省したくないんじゃありません?だったら、やめてしまいましょうよ。この時間も、すみれさんの人生として前に進んでいるのよ。人生の時間は待っていてくれないの。ずっと後ろを向いたまま歩いていたら危ないわ。ちゃんと前を見なくちゃ。」
女性は、ひとつひとつの言葉を、私の目をそらさずに話していた。
私を、私自身を見ていた。
大勢としての私ではなく、私だけを見ていた。
私のことを思い、私だけに発せられた言葉は、あたたかく、そして大きかった。
多数の中に入り込むことで安心していた私だったはずなのに…。
私ひとりだけを見てもらえることに、今、私ははっきりと心の安定を感じた。
「すみれさんを見ているとね、すごく勿体ないと思うの。素敵な女性なのに、って。何で、もっと自信を持ってしまわないの?それとも…、すみれさんの理想像が高いのかしら?」
女性は、私に話しかけ続ける。
「そん…な!理想なんて…ないです。私に…理想…なんて」
自分に対して、理想?
そんなことは考えたこともない。
きれいな人もかっこよく生きている人も、周りの誰もをすばらしいと思うけれど、それは自分とはかけ離れている存在で。
時々、私の出来ることが苦手だったりする人に出会うと、少し安心していただけだ。
私は普通なのだと。
それは理想像でも何でもない。
でも…。
私は、ふと思った。
私の望んだ『普通』には、必ず、上と下という位置付けがあった。
その間に属することが、私の『普通』であって、安心を感じる立場だった。
でも、それって…。
私は、女性を見つめた。
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