Real -シンジツ-

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大学に入学して、早2ヶ月。 少しずつ友達ができ、講義室への移動にも慣れてきた。 私の専攻は『日本文学』。 古き良き時代の文章に触れたくて、私は文学部の中でも国文学科・文書研究コースを選択した。 私が通う『星園大学』は、文学部、商学部、スポーツ科学部から成る小さな私立大学。 この学校を選んだ理由は、自宅から近いという事だけ。 私の自宅のある千葉県柏市から電車で20分。 そして大学の最寄駅と大学は、目と鼻の先にあるという好立地だった。 「莉子、今日もサークルに寄っていくでしょ?」 日本文学史の講義の後、同じサークルに所属する沙希に声を掛けられる。 彼女とは高校時代からの付き合いで、『E★エブリスタ』という小説投稿サイトを通じて知り合った。 沙希は同じ文学科に所属しているが、彼女の専攻は英文学科。 同じ小説好きという共通点はあるけど、彼女は読んでいるのは専ら国外の文書ばかりだった。 「演劇部の今年の新歓公演、ハムレットをやるんだって!」 シェイクスピアの大ファンである沙希は、演劇部の新歓公演の話題を聞き付けテンションが上がっている。 その隣を歩く私は、今日も浮かない表情を浮かべていた。 「ちょっと、莉子! そんな暗い顔してないでさっ!」 自分の話を上の空でしか聞いていなかった私の背中を、沙希がバシバシッと叩く。 暗い表情を浮かべているのは、ここ最近毎日だ。 昔から好きだった『空想』だけど、元ネタを失ってしまったら想像の限界ができてしまう事に気付かされたから・・・。 「そういや沙希は、昨日処女作を完結させたんだよね? 1年半掛かりの大作、本当にお疲れ様。」 自分のネタはなくとも、友達の作品はしっかりチェックしている私。 彼女は昨夜、以前から執筆していたギリシャ神話を題材としたファンタジー小説を完結させていたのだ。 本格的に小説の執筆を始めたのは、私も沙希も同じくらいの時期だ。 それなのに私は、未だ処女作を完結させられず、ネタを尽かして執筆意欲も湧かない程に落ち込んでいた。 「莉子は最近、更新滞ってるよね? やっぱり、彼と会えないから・・・?」 沙希は私の『片思い事情』を知っている。 そしてこの事情は私の執筆に対するバイタリティであり、ストーリーの元ネタそのものだから・・・。
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