日常2

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「ひろぉー? どういう人だったか覚えてる?」 再びコーヒーに口を付けながら新聞を読みつつ末の息子に声を掛けた母親の声色はいつもと変わらない。俺達が慣れているように、母親もこういう事態には慣れっこだ。 「んーとねー。えびちゃんみたいなひとだったー?」 むぐむぐとスクランブルエッグを咀嚼しながら答えた紘の言葉に、母さんはハタと思い返すように視線を上げた。 「……あの人、魚介類好きだったかしら?」 「そっちのえびちゃんではなくて」 継の鋭いツッコミが炸裂する。 「ママ、相変わらずエンタメ疎すぎだよぉ。政治経済だけじゃなくてテレビ見なきゃ、仕事で話題に付いていけないよぉ」 「エンタメ話すような人を相手に商談してないわよ」 「えー。オジサンばっかりって事?」 「どこぞのキャバ嬢がいいって話題を持ってた方が、まだ盛り上がるわ」 「きゃばじょーってなにー?」 「紘にはまだ早いかなぁ?」 継が無表情なまま紘に言う。 相変わらず表情がないヤツだなと思いながらも俺は最後の一切れとなったパンを口の中に頬り込んだ。と、同時だった。 「はよー……」 ガシガシと頭を掻きながらやってきたのは渦中の人である父だ。 「おはよー浮気性のパパ」 「おはよう離婚寸前の父さん」 「おはようお母さんに愛想尽かされそうな父さん」 「おはよー……りこん?」 「……ちょっと待て。俺に一体何があった?」 辛辣な言葉を投げかける我が子達にさすがに戸惑いを覚えたらしい父だったが、皆素知らぬ顔で黙々と朝食をとる。 父の顔がギギギッとブリキのおもちゃのように動いて、新聞を読み続ける母親の方に向くと、母さんはマグを片手に持ったまま視線を上げてにっこりとほほ笑んで。 「次は法廷で会いましょう?」 「待て待て待て待て! 何か分からんが誤解が生じてる! 昨日あれだけ愛し合ったのにまだ足りないか!?」 「新しい女の影を隠そうと本妻に愛をささやいてんだぜ、アレ」 「愛人には『お前だけだよ』って言ってるんだね、きっと」 こそこそと、しかしながら堂々と真正面に座る継と俺が意地悪く会話をすると、父はますます焦ったように座る母親に歩み寄って肩を抱き寄せた。
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