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「なんであんな父親がモテるんだろうね」
「同感」
あんな呼ばわりしているけれど、一応実の父である。
どういうわけか昔から父のまわりに女性の影が絶えない。
自分達が生まれる前――むしろ母さんと出会うまでは女遊びが激しかったとは聞いたものの、母さんと出会ってからは母さん一筋で浮気ひとつしたことがない愛妻家だ。
自分達という五人の子供がいる父親だから当然それなりに年も取っている。なのにこのモテ具合はいかがなものか。時々、あの人の子供であることが悲しくなる時があるけれど。
「ママに言うべきかなぁ?」
フォークでスクランブルエッグをつつきながら憂鬱そうにつぶやく妹を横目に、どうするべきかなとちょっと砂糖を足したコーヒーをすすっていると、ガチャリとリビングのドアが開いて一人の女性が入ってきた。
母だ。
「おはよぉ……」
「おはよう母さん」
「おはようママ」
「おはよー!」
「はよ」
上から寝ぼけている母親、俺、紬、紘、継だ。
少し眠たそうながらも自分の席に座った母親の前に、甲斐甲斐しく使用人が給仕してくる。何を言わずとも朝食が並べられ、今日の朝刊を別の使用人から渡された母親は「ありがとう」と呟きながら新聞に視線を落として淹れたてのコーヒーに口付けた。
「……」
「……」
言うべきか言わないべきか、と兄弟達の中で視線での会話が繰り広げられる。
が、視線だけで執り行われた兄弟会議はすぐに一つの結論を紡ぎ出した。
「紘が新しいお母さんほしくない? って知らない女性に声かけられたって」
「また?!」
さらっと言った俺の発言に、母親は新聞から顔を上げて叫んだ。
それから一瞬の間を置いて、もう一度視線を新聞へ。
「……あー、久々過ぎて目覚めたわ。ありがと紡(つむぐ)」
「離婚?」
「そっちの目が覚めたじゃないわよ」
新聞の記事を視線で追いながらもレスポンスが早い母親の言動に舌を巻く。相変わらず、複数の事を同時進行でやってのけるなと。
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