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「まぁ、どこの取引先のお嬢さんかは知らないけれど、愛想振りまくならもっと上手になさってね? 子供を利用するなんて最低の行為だと念を押して伝えて頂戴」
「ああ」
そうしてようやく母の許しを得た父は嬉しそうに目を細めて母のこめかみにキスを落とす。子供が見ていようがいまいが関係ない。
見てらんないと言ったように皿に乗ったスクランブルエッグを口に掻き込んだ継は、もぐもぐと咀嚼しながら立ち上がった。
「ごちそうさま。行ってくる」
「あら、もうそんな時間なのね。今日は?」
母が継に視線を向けると、彼は使用人から差し出されたスクールバッグを手に取りながら予定を告げた。
「父さん、今日はもうアメリカ発つんでしょ? 茅(ちがや)叔父さんのところに帰るよ」
「ああ。茅によろしく言っといてくれ」
「わかった。行ってきます。あ、見送りいいから」
「はい、行ってらっしゃい」
バタバタとリビングを出て学校へ向かった継を見送って、今度は紬が立ち上がって俺を見た。
「私達もそろそろいこっかぁ」
「そーだな」
妹に言われて俺も立ち上がれば、今度は父が尋ねてきた。
「二人は?」
「私は夢兎(むと)叔父さんとこに帰るよー」
「じゃあ俺は十五(とうご)叔父さんとこかな」
「えー、たまには一緒に夢兎叔父さんとこいこーよ?」
「今度な」
「ひろはねー、蝶(あげは)おじちゃんとこいくー」
「そっか。今度、一緒に泊まりに行こうな?」
「うん!」
会話に入ってきた弟を邪険にすることなく告げれば、紘は満面の笑みを浮かべて嬉しそうに頷いた。
「じゃ、行ってきます!」
「行ってきます!」
『いってらっしゃい』
ばたばたと妹と共に玄関を飛び出した途端、妹がクスクス笑いながら俺に話しかけてきた。
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