恋に焦がれ恋に泣く

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「桜崎様ですね、こちらへどうぞ」 森野っ、私を解放してからご案内しろっ。 森野の背中をこぶしで叩いた。 「これは失礼しました。こちらは社長の霧矢はなでございます」 両肩を掴まれ、一回転してお辞儀をした。 「はじめまして、霧矢です」 顔を上げると、そこには茶髪のいかにも不良少年風な小僧がいた。 その目は狐のように釣り上がっていたかと思うと一瞬にして目尻を下げ、まるで尻尾を振りながら主人に向かってくる子犬のように私を見た。 森野を見るときとなんと対照的な笑み。 私の見間違いだろうか。 秘書の森野は、私の前だけは子犬のように振る舞う。 この桜崎という男も、同じ類だろうか。 「ここではなんですから、あちらのラウンジでお話を伺いましょう。森野、案内して差し上げて」 「かしこまりました。桜崎様、こちらへどうぞ」 森野が右手をラウンジに向けて促すと、桜崎は私に屈託のない笑みを残して行った。 しばし絶句。
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