恋に焦がれ恋に泣く

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「手のかかる子猫がやってきたと思って、しばらくかまって差し上げたらいかがですか? 少しは気が紛れるかもしれませんよ」 腕を組んでどうしようか思案する。 「子猫というより、狸がお似合いかもしれませんが」 「何か言った?」 「いえ、独り言ですよ」 森野の手が私の手を包む。 「それとも城太郎様との約束を反故になさいますか?」 森野の声がワントーン下がった。 「それが出来ないと分かっていて、桜崎さんを送り込んできたんでしょう。ま、城太郎の人を見る目は確かだし」 「では、契約成立ですね」 そう、あの頃に比べたら、小僧一人相手するなんて、赤子の手をひねるようなものかしら……。 「ところで、森野。さっきのうんちくは何? いつタルト焼いたの?」 「え、あれはねぇ、最近観たアニメのキャラが格好よくってぇ、いつか真似してみたかったのぉ。タルトはね、先客様からの頂き物よぉ」 ……楽しそうだな、森野。
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