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* * *
車の後部座席に、私と桜崎。
運転席には、森野。
……。
…………。
なに、この静けさはっ。
森野、何か話しなさいよっ!
バックミラー越しに目が合った森野が、ふんと笑う。
はいはい、全てお見通しってことね。
右を向けば、窓のふちに頬杖をついて、外を眺める小僧が一人。
時折照らす街灯が、髪を耳に掛けている桜崎のフェイスラインをくっきりと浮かび上がらせた。
――へー、意外と整った顔してるじゃない。
私も反対側の窓から、雲ひとつない空にこうこうと輝く月を見た。
――きれいな満月だな。
『僕は今宵の月より、はなさんを見ていたい』
ふ、あいつが言いそうなセリフ。
くさいったらありゃしない、って。
――今、耳元で聞こえた、よね?
顔を右に向けると、鼻先に何かが触れた。
「キスまであと1センチ」
桜崎の息が唇にかかった。
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