恋に焦がれ恋に泣く

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「桜崎様、危ないのでしっかりとシートベルトをお締めください」 ツートーン下がった森野の声にはっとして、口元を押さえた。 と同時に、車体が左に大きく揺れた。 「大変失礼いたしました、獣が急に飛び出してきたものですから。お怪我はございませんか?」 私の足元に倒れこんだ桜崎を見下ろして、しらっと声を掛ける森野。 ――あんた、絶対わざとよね。 おかげで助かったわ。 「ふーん、そう。これからは場所をわきまえるよ、森野サン」 ――このふたり、やはり似てる。 見間違いじゃなかったんだ、狐のような眼を持つ小僧。 今、森野を見ている桜崎の眼は、先ほどの笑顔の人物とは別人のよう。 桜崎ユウタ、食えない奴。
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