恋に焦がれ恋に泣く

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* * * 自宅の玄関前に、小僧とふたり。 どうして森野、お前は帰ったんだ。 「初めてのクライアント、頑張ってくださいね」だと!! もう少し打ち解けるまで、一緒にいてくれてもいいじゃない。 わが社のスタッフは、こんなに心細い思いをしているのか。 処遇を検討しなければならないな。 危険手当でもプラスしようか。 「ただいま」 「おかえりー」 なぜ、返事する。 ――もしかして、逆もあり? 「おかえり」 「ただいまー」 やはり答えるのか! ――玄関で靴も脱がずに、なにやってるんだか。 「どうして一人暮らしなのに、”ただいま”って言うの?」 背を向けていた桜崎が、振り向いて聞いた。 意外と背が低いのね。 ヒールを履いた私と同じくらい。 ――165くらいかな。 桜崎と目が合った。 「と、特に意味ありません、無意識に言っていたのかも」 鼻に触れた感触が蘇ってきて、気恥ずかしさから目をそらした。
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