恋に焦がれ恋に泣く

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「おかえり、はなさん。今日も頑張ったね」 そう言って桜崎は私の頭に手をのせた。 うかつだった。 ――どうして。 今さら、気づくなんて。 私が欲しかったのは、愛の言葉なんかじゃない。 こんなささやかな温かさだったってことを。 ぬくもりと一緒に、言葉が心に解けてゆく。 私の頬を伝う涙を、桜崎が指でぬぐう。 今、あなたの笑顔に、ものすごく救われている。 私はこんなに単純な女だっただろうか。 「ところで、部屋に入ってもいいですか?」 初めての敬語を聞いて、つい笑ってしまった。 「どうぞ。奥のソファで話しましょう」
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