恋に焦がれ恋に泣く

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「ハワイコナはないけど、モカでいいですか?」 立て膝してソファに座る桜崎が、私に向かって敬礼した。 「うん、ありがと」 「桜崎様はコーヒーの味にお詳しいようですね」 ふたがカタカタ鳴るコーヒーポットの火を止めた。 立ち上がった桜崎がキッチンにいる私の隣に並ぶ。 「ハワイコナが苦いって、昔マンガで読んだんだ。本当は飲んだことないから味は判らない」 そう言って桜崎は笑った。 「マンガお好きですか? 森野と気が合うかもしれませんね」 お湯を注いでコーヒーカップを温める。 「森野さんて、恋人いるの?」 「気になりますか?」 「すきのない、有能な秘書なんだろうね」 少しずつコーヒーの粉が膨らんでいく様を見ながら、 「森野は最高に相性がいいですね。常に状況を判断して先を読む能力に長けている。私の秘書は彼以外考えられませんね」 コーヒーの香りを深く吸い込んで、脳をゆっくりほぐしていく。 「森野に特定の相手はいないと思いますよ、聞いたことありませんから」 振り返った視線の先には、冷蔵庫に寄りかかり腕を組んだ狐眼の男がいた。
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