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「時間切れっぽいかな?」
クスリ、と彼が笑った。
「………」
こんな時でも彼は笑うのかと思った。
「……それだけなの?」
この状況で、彼はそれしか言わないつもりなのか。
「んー………なんとなく分かってんだろ?」
「………」
いつからか、彼の髪が金から銀になっていた。
いつからか、肌の色が人間では有り得ないくらい白くなっていた。
いつからか、目の色が赤に近くなっていた。
いつだったか、彼の腕が透けているのを見たではないか。
「…アンタ、空気になるの?」
そんなわけないだろう。
私の頭が否定しても、彼は否定しなかった。
「人間って、そんな捨てたもんじゃねぇぜ?」
「何を、」
いきなり言うのか。
自分が消える間際になって。
「俺は自分が段々透けていくのが怖かった。髪を染めたわけでもないのに、美白してるわけでもないのに日に日に色が抜けていく。……あれだけ空気になりたいと願っていたのになりたくなかった」
彼の本当の想いがポツポツとこぼれ出す。
「自分が、本当は人間に執着してたことに気付いた。俺を見てくれてる人がいたことに気付いた」
だから人間が嫌いではなくなったと言いたいのか。
そして、私にもそういう人がいるとでも諭す気なのか。
自分は消えるクセに。
「バカじゃない?何を言われたって、私は人間なんか…」
「嫌いなのは、まだ関わってる証拠なんじゃね?」
だからまだ後戻り出来るとでも?
「無責任ね」
「俺の自己満足だし」
いたずらっ子のような笑みを浮かべる彼。
多分これが、彼本来の笑み。
そんな彼の四肢はもう見えない。
何もかもが透けて、段々輪郭すらも危うくなってくる。
それでも彼は笑っていた。
「俺、けっこうアンタのこと好きだった。だから…」
続きを聞くことは叶わず、彼は消えた。
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