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怒りからか、はたまた悲しみからなのか。だんだんと早くなっていく胸の鼓動を無理やり押さえつけようと、深く吸い込んだ空気を大きく吐きだす。
もう、考えるのはよそう。考えたって何も変わらない。
今はただ、任された仕事をこなしていくだけだ。
そう自分に言い聞かせ、自身の心に落ち着きを取り戻していく。
なのに、何故なのだろうか。目の前に映る景色は先程まで見ていたものと比べ、一切の色味が失われてしまっていた。
違う世界に飛ばされたのではと思える程の、白と黒だけで構成された無機質な世界。
それはまるで、今の自分の心を奥深くまで覗きこんでいるように思えて......。
俺は再度会社までの道のりを、今度は足早にではなく全力で駆け抜けた。
道行く人々のことなど目も呉れず、この胸に巣食う不快感を拭い去るためだけに、ただ我武者羅に足を前へと突き動かしていく。
少し前までは寒くて仕方の無かった筈なのに、今では全身から湯気が出ているのではと思う程の熱が、体の奥底から溢れ出ていた。
しかし、そんなことなど気にも留めない。
少なくとも今は、そうしなければ自分を保てる自信なんて、無かったんだ―――。
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