115人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
「……さん……したよ」
深い暗闇の中で、誰かの声が聞こえた気がした。
「……さん!着きましたよ!お客さん!」
その声は次第に大きくなっていき、それと共に強い揺れが体を襲う。
そこで俺はようやく止まったままだった意識を取り戻した。
「……あぁ、すいません、ありがとうございます」
まだ覚醒しきっていない頭を無理矢理働かせて、少しずつ今の状況を把握していく。
どうやら俺は帰りのタクシーの車内で眠ってしまっていたらしい。
タクシーの送迎で寝るなんていつ以来だろうか。普段なら絶対にしない行動に、我ながら少し驚く。
自分で思っている以上に体は疲れているみたいだ。
「いや、いいんだよ。お客さんうなされてたから心配しちゃったよ。それよりも、もう着きましたよ?」
運転手からそう告げられて、ふと窓の外へと目を向ける。
見てみるとそこは既に俺のよく見知った景色へと変わっていて、大分早い段階で寝てしまっていたのだと気付く。
最初のコメントを投稿しよう!