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「本当すいません。あ、これ、代金どうぞ」
俺は慌てて鞄から財布を取り出し、運転手へ運賃を手渡した。
運転手は優しげな笑みを浮かべながら「ありがとうございます」と軽く頭を下げ、手渡した代金を受けとる。
「いや、いいんだよ。お客さん疲れてるみたいだしね。若いからってあまり無茶はいけないよ?」
そう言って彼は、先程の優しげな笑顔を再度浮かべた。
あぁ、いいなぁ、こうゆうの。
本当に些細なことだけれど、たったそれだけで心がとても暖かくなる。
少しばかり疲れがとれたと、素直にそう思える。
運転手の優しさと笑顔に元気の出た俺は、もう一度お礼を言ってから足を踏み外さないようにしっかりと注意して、タクシーから降りた。
すると彼はふいに思い出したかのように窓を開け、俺のことを呼び止めてきた。
「あ、お客さん。そう言えば最近変な事件が多いみたいなんで、気をつけてくださいね」
そう言って運転手はまた俺に向かって軽く頭を下げ、今来たであろう道を戻っていった。
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