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「あ、もしもし神崎くん? お疲れ様。今、平気ぃ?」
声を聞いた瞬間に、ああ、やっぱりか。と、心の中で呟く。
男性にしてはやや甲高い声色と、聞く度にイライラさせられる間延びした話し方。
紛れもなく部長その人だ。
俺の直属の上司であり、一言で表すとしたらまさに絵に書いたような、ろくでもないクソ上司。
「あ、お疲れ様です! 大丈夫ですよ! どうされましたか?」
「いやぁ、実はさ? 山本物産まで今日中に届けなきゃならない書類があってさぁ? 良かったら頼めないかなぁ?って」
それを聞いた瞬間、心の底から電話に出ないでおけば良かったと後悔する。
山本物産はここから電車に乗って二時間はかかる、ウチの取引先でも一番遠い会社だ。
今からすぐに行ったとしても、会社に戻ってこれるのは九時過ぎくらいになる。
そこから本来の自分の仕事をしていたら、家に帰る頃には日をまたいでしまうだろう。
「いやぁ、他の子に頼もうと思ったんだけどみんな予定があるみたいでさぁ?」
「俺も今日だけは少し用事があってねぇ、行けそうにないんだよぉ」
「なぁ、頼むよぉ。君しかいないんだぁ。今度なんか奢るからさぁ?」
部長は矢継ぎ早に言葉を畳み掛け、俺に対して今まで果たされたことのないいつもの〝約束〟を突きつけてくる。
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