28人が本棚に入れています
本棚に追加
娘の鼻からはすでにおびただしい血が流れ落ち、床の大半を赤黒く染めていた。
散々殴られて痛みを感じなくなった背中も、踏まれるたびに息が止まる。
私は小学校2年生。
弟は先に保育園に行った。
お父ちゃんはトラックに乗り、従業員たちと現場に出掛けていった。
2歳の妹は私の情けない姿を、階段の途中から覗いている。
「テメエの鼻血で床が汚れるじゃねえか!」
「死ね!生きてる価値がねえんだよ!」
「テメエにやる飯なんかねえんだよ!」
母親が踵を私の背中にグリグリと押し付けて、怒鳴り散らしている。
こんなときはなかなか終わらない。
昨夜、お父ちゃんと何か揉め事でもあったかな…。
「死ねって言ってるだろうが!バカヤロー!」
骨に当たれば半端なあ痛みが脳天を突き抜ける。
内蔵に入れば息が止まるほどの苦しさだ。
どっちみち、痛い。
私はいつものように引きずられ、玄関の床まできた。
板の間のほうが汚れても始末に困らないから、いつも母親は床の上で激しく暴力を奮う。
予測しても身体が動かない。
襟首を掴まれて、床に頭を打ち付けられる。
何回も何回もやられると、頭の裏側がしーんとしてきて、目の前が薄暗くボケてくる。
鼻血は勢いを増し、喉に逆流してきた。
(気持ち悪い…)
でもどんどん血は流れ込んでくる。
呑み込むタイミングと頭を打ち付けられるタイミングが微妙にずれて、私はむせてしまった。
よくあることだが、ブファッと口から血飛沫を吐いてしまった。
ゴボゴボ…
ゲホゲホッ…
涙と血。
血と涎。
「ゆ…ゆるして…ゲホゲホ…ください…ゲホゲホ…」
とりあえず、言っておく。
ちょっとだけ暴力が止まった。
四つん這いで潰れていた身体をゆっくり動かし、仰向けになる。
最初のコメントを投稿しよう!