28人が本棚に入れています
本棚に追加
階段の途中で膝を抱えて私を見る妹は、視線を逸らすように横を向き、私と目が合わないように背中を向けた。
正に息をつくための、私にとっては一瞬の休憩のつもりの体位変換だった。
隣の家の畑から、嫁いでまだ日の浅いお嫁さんが、我が家を気にして窓の向こうからチラチラとこちらを見ている。
助けてほしかった。
無意識に居間の出窓に向かって起き上がろうとしていた。
「このバカ!何を企んでるだ!」
「立ちやがれ!立て!」
母親は見逃さない。
私の気持ちが母親から離れたことを。
鼻血は粘りがあって、すぐにネチネチとして固まり始める。
私の顔には幾筋も血のラインがこびりつき、鼻の中は熱いままだ。
「ここへ座れ!」
居間の畳の上を指し、母親は新しいタバコに火を点けた。
時間は八時を少し過ぎた。
ポンキッキーが始まっていた。
集団登校の私の班はとっくに出発してしまっただろう。
「ちょっと貸してみろ!」
母親は娘の右腕をぐいっと引っ張った。
殴られたり蹴られたりしていれば、母親は他のことを考えていないからひたすら耐えればよい。
だが、こんな静かな展開はこれから起こることが予測できず、ただ母親の言いなりになるしかない。
「な、な、に、す、する、する、の、お…」
泣きしゃっくりが止まらないのと、恐怖が頂点に達しているせいで、うまく喋れない。
「い、いた、いたい、こ、と、は、い、いやだ、いやだ…や、やめ、…てっ!」
正座をして、母親は私と向き合って、タバコの先を赤く光らせている。
「いや、い、いやだーっ!い、い、いや、だよ、やめ、…てっ、やめ、…て…ください…おね、おねがい、おね、おねがい、しますーっ!」
ぎゃーっ、ぎゃーっ、ぎゃーっ
最後は絶叫だった。
手の甲はタバコの火を受けて、皮膚は灰色に変わっていた。
熱さはなく、鋭い痛みを全身で受け止めながら、私は大声で泣いた。
うわぎゃぁぁ、う、う、うわぎゃぁぁ…っ!
あぎゃぁーっ、うわうわうわぎゃぁーっ!
水で冷やしもせず、タバコの灰を落としもせず、母親はニヤニヤと薄笑いをしながら、苦しむ小学校2年生の娘を眺めているだけだ。
最初のコメントを投稿しよう!