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頭の中に、ふっと突然浮かぶ事がある。
春樹の言った、あの言葉……
溜息のように小さく、春樹の口から洩れた言葉。
『ーー俺の事、好きになってよ。』
熱帯びた春樹の視線。
触れてしまいそうな吐息のかかる、あの距離感。
いつも私の心を惑わせて、
ジワリッと揺さぶりかけてくる、アイツの甘い笑顔。
その穏やかで見透かすような瞳。
----なんで、あんなこと言ったりしたの?…
『 春樹君は、高嶺の何処が好きなの? 』
そう高橋先輩に聞かれた時は、
目線を泳がせるようにして言葉を詰まらせていた癖に。
『…いっぱいあり過ぎて、言え…なかったんだ。』
『そーゆー不器用なトコ、…好きだよ?』
----なんで、そんな顔して言ったりするの?…
切ない瞳を揺らして。
少し戸惑うような、不安げに口を歪めて笑う春樹の表情に
胸が締め付けられてしまう。
寂しげに瞳を揺らして私を見つめるその眼差しに、
心が揺さぶられてしまう。
『たかちゃん、ありがとう。
最初で最後のたかちゃんとのクリスマス、
楽しかったよ。』
春樹の香り。
抱きしめられた力強い腕。
すぐさま…
力無く離れていった温もり。
名残惜しいという気持ち。
----なんで、私は寂しいなんて感じてしまったのだろう…
春樹の瞳からは、本心なんて窺えなくて。
『なんで……』って気持ちばかりか積もってゆく。
その先に踏み出すのが怖くて
私は全てに蓋をする。
いつだって、一歩踏み出すのが怖いんだ。
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