灯火

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私に近づくと『不幸』になるらしい。 オシャレとはほど遠い野暮ったい服装に、櫛でとかすだけの真っ黒な髪。 そして、大きな黒縁メガネ。 いつしか付いた名前が『しょーこさん』。 私の本名は『あかり』だ。 『昭和』の『しょーこさん』。 それが平成生まれの私の名前。 べつに苛められていたわけじゃない。 戯れの一種だろう。 どうも私は一昔前の風貌らしい。 ただでさえ呼ばれることの無かった私が、その名前で呼ばれるたびに『あかり』が消えていく。 本当の私が分からなくなる。 私が消えても誰も気づかないかもしれない。 気づけば下を向いて歩くようになっていた。 誰も私を見ないなら、私も誰も見ないようにしよう。 意地とか反骨精神ではない。 拒絶される前に拒絶する。 それが私の生き方。 そうすれば誰も何も言わない。 言われて傷つくこともない。 そして、なにも『始まらない』。
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