Joke -ウラハラ-

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「彼は芸人さんだよ。 ほら、『ヒマナンデス!』に出てる『Joke Boyz』の・・・。」 「あっ・・・、本当だ!!」 どうりで見た事があるはずだ。 喫煙席でコーヒーを啜る彼は、お笑い芸人・『Joke Boyz』のボケ担当。 たしか名前は・・・、『柳沢元喜』。 『Joke Boyz』というコンビは、ここ最近バラエティー番組を中心に活動する人気昇り調子のコンビ芸人だ。 芸能情報に疎い私でも、名前と顔が一致する程の知名度。 しかし、テレビの中では先輩芸人や他のタレントにいじられてばかりの彼だけど、こうやって1人カフェでコーヒーを飲んでいる様は、真面目で賢そうな好青年に見えた。 手元には、バラエティー番組の台本らしき冊子。 それを読みながら、彼は時々コーヒーのカップを口元に近付けている。 この店イチオシのキッシュも好物らしく、台本を読みながらあっという間に平らげてしまった。 テレビの中ではあんなに存在感があるのに。 今この同じ空間の中にいる彼の姿は、店内にいる外の客と同じような穏やかな雰囲気。 『芸能人』というギラギラしたオーラはなく、遠目で見れば、行き付けのカフェで読書に耽る若者の姿にしか見えない。 だけど、1つだけ気になったのが・・・。 「灰皿、お取替えしますね。」 空の灰皿をトレイに乗せ、彼の脇に立った私。 灰皿の中には、丸太のように積まれた吸い殻。 その向きは綺麗に同じ方向を向き、灰皿の中央に小さな山を作っていた。 「ああ・・・、ありがとう。」 彼は吸い殻で山盛りになった灰皿をテーブルの端に寄せ、私が灰皿を交換しやすいよう配慮してくれる。 そしてその時に見た彼の笑顔は、テレビで見る余所行きのものではなく、プライベートな彼の一部がそのまま表現されたもののように思えた。 テーブルの上には、茶色と白のキューブシュガーが積まれた小鉢。 その脇には、まだ半分程残っているブレンドコーヒーと、空っぽになったキッシュの皿が置かれている。 「お済みのお皿、お下げします。」 そう言って、彼の前にある空の皿に手を伸ばしたその時だった。 「手、綺麗だね。」 彼のその言葉に、思わず皿に触れかけた手を躊躇してしまった。 嬉しさと照れくささが入り混じり、私の顔は赤くなってしまっていたのだろう。
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