Joke -ウラハラ-

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「お、可愛い。」 照れる私の顔を覗きながら、彼はニッコリと笑みを浮かべている。 こんなセクハラ紛いな事・・・なんて思いながらも、芸能人である彼に褒められれば素直に嬉しい。 仕事柄、タレントやモデルなんかの美女に囲まれ仕事をしている彼だからこそ重みを感じる言葉。 例えこれが社交辞令であっても、ちょっとした優越感を感じる。 「ありがとうございます。」 そう言って私は笑顔を作り、彼の前にある空っぽの皿を回収した。 手は、震えていなかっただろうか。 そして私の見せた笑顔は、ぎこちなくなかっただろうか・・・? そんな事を気にしながら、マスターのいるカウンターへと戻る。 カウンターへと戻った私の顔は、隠しきれない嬉しさで緩んでいたのだろう。 マスターはそんな私の表情を見て苦笑してはいたが、状況を察し「大丈夫?」と声を掛けてくれた。 マスターの言っていた「大丈夫?」という言葉の意味。 当時は、彼との会話の後、私の様子がおかしかった事を気に掛けてくれていたとばかり思っていた。 しかしその真意を知ったのは、それから随分先の事で・・・。 コンビ名を出せば大抵の人が頷くほどの有名人。 そんな彼に褒められた事で、私は有頂天になっていた。 学校に行けばクラスメイトにこの事を話し、お笑い好きの弟には威張り腐って自慢して見せたのだ。 そして、奇跡とも言える夢のような出来事が起こったのは、彼と出会ったあの日から1ヶ月が経った頃だった。 季節は少しずつ秋に近付き、アイスコーヒーよりもホットコーヒーが恋しくなる頃。 この1ヶ月の間も、私はアルバイト先で何度か彼と顔を合わせていた。 いつものように、台本を片手にブレンドコーヒーを飲む彼。 そんな彼の横顔を眺めるのが、いつしか楽しみになっていた。 「空いたお皿、お下げしますね。」 そう声を掛けながら、彼が読んでいる台本の中身をチラ見する。 そして彼が出演する番組がわかると、欠かさず録画し活躍をチェックするようになっていった。 「先日、テレビでの活躍拝見しましたよ。 お疲れ様です。」 いつしか私たちは、会えば会話を交わす仲になっていた。 そして、とうとうあの日が訪れる・・・。
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