Joke -ウラハラ-

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10月に入って間もない金曜日の夜だった。 21時にアルバイトを終え、帰宅するために金町方向へ歩いていた時の事。 ヘッドホンを耳に当て、お気に入りの曲を聞きながら歩いていた私。 音は聞こえずとも、背後に人の気配を感じて振り向いたのだ。 背中に突き刺さるような視線。 その、視線の主は・・・。 「やっ・・・、柳沢さん!?」 「おう!お疲れ。 今バイト終わったのか?」 どうやら彼は、アルバイト先のカフェから出てきた私を見かけ、興味本位で後をつけてきたらしい。 驚き目を見開く私の顔を見て、彼は満足気に声を出して笑った。 「もうっ・・・!! 驚かせないで下さいよ~!」 「悪い、悪い。 声を掛けようと思ったんだけど、俺、君の名前を知らなくてさ。」 「あっ・・・!!」 そうだった。 私は彼の事をテレビで見て知っているけど、彼は私の名前を知らない。 そして、アルバイト中もマスターから名前を呼ばれる機会はほとんどなく、制服には名札がなかったから・・・。 「名前、教えて?」 柳沢さんに名前を尋ねられ、胸が高鳴っていくのがわかった。 私はただの一般人。 それなのに、後をつけてまで私の名前を尋ねたって事は・・・。 ・・・自惚れかもしれない。 だけど、彼と知り合ってからのこの1ヶ月余りの期間で、少しだけ感じていたものがあったから。 この直感を信じて、彼に騙されてみようか・・・? 「飯田・・・奏楽、です。」 私は素直に、彼に自分の名前を教えた。 すると彼は嬉しそうに微笑み、いつも台本に添えられていた大きな手をすっと私の前に差し出したのだ。 「奏楽ちゃん、これからもよろしくね。」 ・・・これからも? それは、どういう立場で「よろしく」なの? カフェの従業員と客としての「よろしく」なのか、それとも・・・? 「もし良かったら、これから俺ん家に来ない?」 なんだかよくわかんないけど、すごく興味をそそられている。 頭では『ダメだ』と危険信号を出しているのに、体は素直に惹かれていた。 そして私は、彼と握手を交わした手を離せないまま・・・。
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