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興味本位でしかなかった。
私にとっては煙たいだけの『それ』。
しかし、灰皿が1日でいっぱいになる程に彼が吸っている緑の箱の中身が気になって・・・。
「ああ・・・、これ?」
元喜は自分の指先に挟まった『それ』に視線をやり、フゥーッと煙を吐き出した。
これは私が口にしてはいけないもの。
それはわかっているけど、彼の愛用するもの全てに興味があったから。
彼は私の顔をじっと見つめながら、フフッと笑みを漏らした。
そしてフィルターを挟んだ指先をゆっくりと差し出し、冗談交じりの口調でこう私に言った。
「一口だけ、試しに吸ってみるか?」
きっと彼は、そう言えば私が躊躇すると思ったのだろう。
だけど私は、そんな彼の冗談を真に受けていた。
「うん。」
そう返事するが早いか、私は彼の指先から火の灯った『それ』を奪い取り、自分の唇で挟んだ。
そしてそのまま、大きく息を吸う。
「うっ・・・、げほっ、ごほっ・・・!!」
苦しい。
そして、なんて美味しくないのだろう。
隣にいて吸い込む副流煙よりももっと苦く、重たく不味いだけの煙が肺の中に侵入してくる。
そして仄かに感じたのは、その苦みを和らげるメンソールのフレーバー・・・。
「あ~あ・・・、そんな勢い良く吸っちゃダメだって。
つーか、人前でこんな事すんなよ?
家にいる間は黙認してやるけど・・・。」
言われなくてもわかっている。
私はまだ未成年だもの。
知名度のある彼が未成年に喫煙をさせたなんて事が表沙汰になれば、きっと彼は、テレビの向こう側から消えてしまうから・・・。
元喜に会えない日は、テレビの画面越しに彼の姿を見つめていた。
それだけでも充分、幸せを感じる事ができていたのに・・・。
私は欲張りだ。
一緒にいる事だけに飽き足らず、彼と全てを同じにしたかった。
好きなものも、趣味も、嗜好品までも。
そんな私の事を、彼はちゃんと愛してくれている・・・?
「今月末は、丸1日収録があるんだよ。
ライブ(生放送)だから、ちゃんと俺の姿、見ていてくれよな?」
嬉しそうに、自分の活躍する姿を私に見せようとする元喜。
そんな彼の事を、深く知れば知る程好きになっていく・・・。
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