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辰巳先生・・・、いや、遼と付き合ってからは、いろいろな所に出掛けた。
北海道では日本最北端の動物園を訪れ、沢山のアザラシやホッキョクグマに目を輝かせた。
ドライブでよく向かったのは、伊豆高原と軽井沢。
都内だと知人の目に着く可能性があるので、私たちのデートは主に自宅か遠出。
そして、付き合い始めて3年半が経った頃、私は遼と2人で沖縄へと旅行に出掛けた。
タイムリミットまで、あと1年弱。
しかし私たちはまだ、遼の身内に自分たちの関係を明かせずにいた。
「どうにかならないモンかなぁ・・・。」
宿泊先である那覇のリゾートホテルの窓から海を見つめる遼。
彼自身、自分の運命を変えようとこれまでずっと頑張ってきた。
しかしこの翌年の8月、彼はとうとう26歳になってしまうのだ。
「許嫁って言っても、今までに3、4回しか会った事ないんだぞ?
それなのに、よく知らない相手と結婚だなんて・・・。」
そんな彼のぼやきを聞く私は、苦しさを抑え込みながらも笑顔を作るしかなかった。
もし私が悲しい顔をすれば、きっと彼は自分の運命を呪ってしまうから・・・。
「ギリギリまで頑張ってみようよ。
まだ1年もあるんだからさ。」
まだ1年も・・・。
あえてそう口にしなければ、可能性を見失ってしまう気がしたから。
天真爛漫に励ます私の方を振り返り、遼はフゥーッと重たい溜め息を吐いた。
「悠里とこうやって旅行に行けるのも、きっとこれが最後かもしれないな・・・。」
そう言って彼は視線を伏せ、室内のベッドに横たわる私の姿を悲しそうな目で見つめた。
「そんな事ないって!
私は運命を変えられるって、まだ信じてるんだから!」
本当は、もう半分以上諦めている。
だけど、どうにかして彼を励まさなきゃ・・・。
必死にもがいているだけだって事はわかっているけれど、まだ止める訳にはいかない。
どうにかして、彼の運命を変えてあげたいと思った。
だって彼は、私が初めて心から愛した人だから・・・。
「なぁ、悠里・・・。」
「ん?」
私を見つめる彼の表情が、少しだけ明るくなった。
そうだよ・・・。
私はずっと彼を信じてきたから、これからは遼にも私を信じて欲しい。
「なぁ、明日のデートコース、全部俺に任せてくんない?」
「え・・・?いいよ・・・?」
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