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今日の東京は、36℃の猛暑日だ。
6月に行われた、元恋人の婚約パーティーに何食わぬ顔で参加した私。
彼の婚約者は噂通りの美人で、少しだけ負けを認めてしまいそうになった。
そしてあの日の私は、一稀と一緒にずっと会場の端っこに座っていた。
できるだけ、彼に姿を見られないように。
そして一切、会話を交わさぬまま・・・。
「今日も暑いねぇ。
もう明日から8月だもん。」
大きくなったお腹を撫でながら、もうすぐ対面する我が子に話し掛ける。
彼が26歳になるまで、あと1週間を切っていた。
しかし、未だに彼からは何の音沙汰もない。
「悠里、一稀君が来てるけど、上がってもらう?」
キッチン横のインターホンのモニターを覗きながら、母が私に来客を告げる。
それにしても、ずいぶん急な訪問だこと。
「ああ、私が玄関に行くよ。
中に上がってもらって。」
私はゆっくりと体勢を起こし、一稀の待つ玄関へと向かった。
一稀の家は、たしか板橋だ。
こんな遠くまで、わざわざ来てくれるなんて・・・。
リビングを出て玄関を覗くと、そこにはニッコリと微笑む一稀の姿があった。
「一稀、いらっしゃい。
急にどうしたの?」
お腹をさすりながら、彼の前に立った私。
一稀は大きくなった私のお腹を見て、嬉しそうにこう言った。
「いやぁ・・・、実はさ。
お前に渡したいものがあって。」
「渡したい物・・・?」
一体何だろう?
急に尋ねてきてまで私に渡したいものって・・・。
「実は、ここじゃなく車の中にあるんだ。」
そう言って一稀は、私の体を支えながら自分の車へと私を誘導し、車内に置かれた『私に渡したい物』を見せてくれた。
「あ・・・あんた、馬鹿じゃないの!?」
彼が持ってきた・・・、いや、連れてきたものは、彼の車の助手席で私に向かって手を振っていた。
彼の顔を見た瞬間、嬉し涙が溢れてきた事は言うまでもない。
そこにいたのは、正に・・・。
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