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彼のその言葉に、一瞬顔を強張らせた私がいた。
そうだった・・・。
彼らは私と彼の『関係』を知らない。
マコと誠也は顔を見合わせ、不可解そうに首を傾げている。
そんな2人の疑問を誤魔化すかのように、私はまだ来ていない『もう1人』の話題を振った。
「あっ、そういえば一稀は?」
「ああ、あいつは今日も遅れてくるよ。
ったく・・・、大学生になっても相変わらずだよな。」
誠也はチッと舌打ちし、手元にあったアイスコーヒーを一口飲んだ。
マコも誠也に同調し、「ホントだよー」と言いながらケラケラと笑う。
誠也、マコ、一稀、そして私。
この4人は、中学時代に通っていた学習塾の仲良しメンバーだった。
誠也と私は小学4年生の頃から、マコと一稀は小学5年生の頃からあの塾に通い、中学を卒業するまでずっと同じクラスで勉強を共にしてきた仲。
みんな別々の高校に進学したため、今日の再会は本当に久しぶりだった。
「ところで、辰巳先生の婚約者の話聞いた?
うちのお父さんの取引先である会社に勤めていた人なんだけど、すっごく綺麗で性格もいいんだって!」
思い出したように、マコが今日の主役たちの話題を持ち出す。
何気なく放たれたその言葉に、強く心が揺さぶられた。
「何なに?そんなに美人なの?
さすがたっちゃん、やるなぁ~!!」
誠也はこれから会える『美人』に期待するように、テンションの高い声で彼の事を羨ましがった。
そしてマコも、これから会いに行く『幸せな2人』の話題をどんどん掘り下げていく。
「元々は良家のお嬢さんみたいよ。
辰巳先生とは、5歳の時からの許嫁だったんだって!」
「許嫁かぁ・・・。
今時まだそんな仕来りあるんだ?
やっぱ金持ちは違うんだな。・・・なぁ、悠里?」
「へっ・・・!?」
急に話題を振られ、困惑する私。
そんな私に、2人は再び首を傾げていた。
「どうしたの、悠里?
今日、何かおかしいよ・・・?」
マコに本心を気付かれないよう、慌てて頭を振った。
しかし誠也は、そんな私にこう突っ込んでくる。
「そういやお前、昔たっちゃんの事好きだったよな。」
「あ・・・!!」
「そうそう!そんな事もあったよね!」
2人にとっては『過去』。
そしてあの頃はまだ、私の片思いだった。
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