25人が本棚に入れています
本棚に追加
―――
彼の事を好きになったのは、中学3年生の頃。
私の通っていた学習塾は高田馬場駅から歩いて5分程の所にあり、週に2回、学校の授業を終えた私は自宅のある綾瀬からこの塾に通っていた。
自宅から塾までの距離はそれなりに遠かったが、予備校講師として働く伯父の勧めによって、小学生の頃からこの『アーク学力増進ゼミナール』に通わされていたのだ。
初めは大嫌いだった塾での勉強。
しかし、同じように小学生の頃からこの塾に通っていた誠也たちと仲良くなり、私は少しずつこの塾での生活に居心地の良さを覚えていった。
中学校に進学する頃には塾での授業は週3回に増え、学力や志望校別にクラス分けも行われるようになった。
しかし誠也、マコ、一稀、私の4人は中学の3年間ずっと同じクラスに所属し、高校に進学してからも時々、メールや電話等で連絡を取り合っている。
そして私たち4人が中学時代の3年間、最もお世話になった講師が・・・。
「初めまして。
今日からこのクラスの社会科の授業を担当する、辰巳遼です。」
彼との出会いは、中学1年生の春。
当時アルバイト講師として私たちのクラスで社会科を教えていたのが『たっちゃん』こと辰巳先生だった。
中学2年生の時までは、彼の事をただの『先生』としか思っていなかった。
だけどきっかけさえあれば、年齢や立場の違う相手に恋する事だってできる。
「辰巳先生、私・・・もうダメだ・・・。」
「何言ってんだ?
受験まであと1年あるだろ?」
「でも・・・。」
「わかった、わかった。
俺が特別講習してやるから、ギリギリまで頑張ってみろ。」
私の父は、日本最高峰の国立大学である『東京大学』の出身だった。
しかし娘の私は、そんな父の血を色濃く受け継いではいなかったようだ。
英語は小さい頃から通っていた英会話教室のお陰でそこそこ成績が良かった。
しかし社会科と理科に関しては壊滅的な成績で、いつも学力テストが行われる度に涙を飲む結果となっていた。
志望校は、私立夢愛学園高校・特別進学コース。
このコースは一般的な普通科と違い、必要とされる学力レベルが桁違いだった。
しかし、父と同じように優秀な大学に入るためにはこのコースで入学しなければならない。
そう信じて疑わなかった私は、これまで必死に勉強を頑張っていた。
最初のコメントを投稿しよう!