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「・・・惜しかったな。」
「うぅっ・・・、ひっく・・・。」
「泣くな。
普通科からでも、国立大学に入れるんだからさ。」
「う・・・ん・・・。」
合格発表の当日、受験に失敗した私は辰巳先生の前で泣き崩れていた。
本命である特別進学コースには入れず、その滑り止めとして受けていた同高校の普通科に4月から入学する事が決まった私。
学校での講義を終え塾のアルバイトに出勤してきた辰巳先生を捕まえ、私は彼の胸を借りずっと泣き続けていたのだ。
「なんか、宮島はほっとけないんだよなぁ・・・。」
「えっ・・・?」
他の塾生や講師たちに見られないよう、空き教室に私を誘導してくれていた辰巳先生。
そんな彼の呟きに、悲しみながらも胸は高鳴っている。
「高校生になっても、また俺に会いに来いよ?」
「・・・いいの?」
「当たり前だ。
だってお前は、俺の大事な生徒だからな!」
大事な・・・生徒。
やっぱり私は、彼にとってただの『生徒』でしかない。
思春期真っ只中の中学生が、少し大人な大学生に恋をした。
6つの年齢差は、実る事のない片思い。
そう、頭で理解しようと思った瞬間・・・。
「いや、違うな。」
辰巳先生は頭を振り、ニッコリと私に笑顔を向ける。
「ただの生徒なら、『特別講習』なんてやらないもん、俺。」
「それ、・・・本当?」
「ああ・・・、そうだよ。」
まさか・・・、まさか・・・!!
これって、『両思い』ってやつ・・・?
「信じられない・・・!!」
嬉しくて、幸せすぎて。
気付いたら私は、彼の胸の中で笑っていた。
受験に失敗した悲しみは、彼のこの一言でチャラになった。
「私も先生の『特別』でいたい。
・・・これからも、ずっと・・・。」
「・・・ああ。
俺も宮島と一緒にいたい。だけど・・・。」
「だけど・・・?」
この時知らされた事実を、幼い私は完全に理解する事ができなかった。
ただ、彼との『両思い』が嬉しい。
心と頭の中は、それしか見えなくなっていて・・・。
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