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「俺・・・、許嫁がいるんだ。」
「イイナズケ・・・?」
「・・・婚約者だ。」
「婚約者・・・!?」
彼は26歳になった時、幼い頃からの許嫁と結婚する事がもう決まっていた。
そしてその運命は、そう簡単に変えられない。
「あと4年と少し。
もしお前と付き合っても、悪足掻きできるのはこれだけの時間しかない。
だけど・・・、俺を信じて付いてきてくれるか・・・?」
私はまだ未熟だったから、『許嫁』というものの重みをわかっていなかった。
だから私は、容易く彼を信じてしまったのだ。
「うん・・・!!
それまでに私も、いい女になれるよう頑張るよ!」
中学3年生の3月。
生まれて初めての彼氏ができた。
そしてその彼は、大好きだった塾の先生。
だけどこれからは、1人の『男』と1人の『女』。
中学校を卒業した私は、それと同時に『アーク学力増進ゼミナール』を退会した。
そしてその1年後、一浪して大学に入った彼も大学を卒業し、私と同じようにあの塾から去っていく事となった。
大学を卒業した彼は、彼のお父さんが経営する予備校の講師として働いていた。
代々木、目黒、両国、大井、池袋・・・、都内に多くの分校を構える彼の職場。
そして彼が配属されたのは、私の自宅から程近い上野の分校だった。
彼の実家は、代官山にある旧山手通り沿いの高級マンション。
それとは別に、彼の祖父母が住む田園調布の豪邸も後々は彼の所有物になるのだと聞いた。
しかし現在の彼は一人暮らしを始め、職場から程近いJR上野駅から徒歩10分の場所にあるマンションを借り生活している。
学校から帰り一度綾瀬の駅に降り立つも、帰宅して着替えてからまたすぐ駅に向かい、常磐線の電車に乗り上野の駅を目指す。
これがずっと、私の日課となっていた。
そして幸いな事に、私の両親は娘の恋愛に関しては寛大だったのだ。
だから私は時々彼を自宅に招待し、付き合い始めてからかなり早い時期に彼を両親に紹介していた。
しかし、彼の方はそういう訳にはいかない。
許嫁のいる彼に別の恋人がいるとなれば、辰巳家の中で大混乱が起こってしまうだろう。
そして私たちは、きっとその仲を引き裂かれてしまうから・・・。
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