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チュッ
「これ以上すんなってこと」
顎をあげて不意打ちで春喜さんの唇に触れるだけのチューをしてやった。
春喜さんは一瞬びっくりして動きも表情も止まったのに、またすぐフニャっと顔をくずした。
「ありがと
…これだけ?」
お礼を言われるとなんだか恥ずかしくなってきて顔に熱が集まるのが分かったが、春喜さんのせいでまた眉間にしわをよせることになった。
「はぁ?」
「冗談だよ(笑)
ごめんごめん」
チュッ
春喜さんは俺の眉間に唇を落とすとそのままソファから立ち上がった。
「会社で水羊羹もらったんだけど、食べる?」
何事も無かったかのように話題をかえた春喜さんは冷蔵庫へと歩き出した。
俺も何事も無かったようにソファに座り直してスマホを探した。
「食べる」
「はい、どーぞ」
スプーンと水羊羹を一つだけローテーブルに置くと春喜さんは俺の隣に座り、缶ビールを自分の方へ寄せていた。
「春喜さんのは?」
「俺これ飲んでるからいいや」
ビールを傾けながら、あとこれ。と言いながら俺のスマホを渡してきた。
俺はああ。と気の抜けた返事をしながらスマホを受け取りそのままテーブルの隅に置いた。
「シフトメールいいの?」
「いい、今これ食べてるし」
水羊羹を掬ったスプーンを少しだけ高く見せて口に運んだ。
「そっか(笑)
…パフェ作れるようになった?」
春喜さんは俺と話す時、いつも幸せそうな優しい笑顔を向けてくれる。
「まだ…てか作ってないし
最近はあんま食べてない」
そんな笑顔に気づいてはいるけど、俺は目を合わせて話す事が少ない。
なんか…照れるし…
「食べてないの?
俺がいる時なんて毎日のように食べてたのに…飽きたの?」
コンと空になった缶を置く音がして春喜さんの方をチラッと見ると、驚きと少し悲しそうな困った笑顔が同居していた。
「飽きたわけじゃないけど…」
俺は最後の一掬いを口に入れお皿とスプーンをテーブルに置くと、両手を合わせてごちそーさま。と小さく呟いてから話を続けた。
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