眠っても

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お坊さんが南無阿弥陀物と声をあげたあと、顔を横に向けた。 その前には大おばあちゃんの親族たちである。 お坊さんが頭を下げる。 親族も頭を下げる。 そうして、お坊さんは室外に去っていた。 大人たちがお坊さんが去るのを見て、また慌ただしく動き出す。 「子供たちをバスに乗せるよ」 「あと霊柩車に大おばあちゃんを乗せるよ。男手を頼む」 雪が吹雪く中、黒い礼服に身を包んだ男たちが棺を霊柩車へと運ぶ。 その吹雪の中に蠢く黒い男たちになぜかひでは恐れを感じた。 僕も死んだらああいう風に箱に入るんだ。 ひでの知識にはまだ棺という言葉はなかった。 生まれて初めての葬式である。 棺の前でお経を読むお坊さんも怖かった。 お香の焚き方を教えてくれる大人たちの作り物のような笑顔も怖かった。 葬式というものは儀式であるだけに、ひでの幼心には恐怖に映ったのだ。 この葬式に手伝いに来た大人たちのどれだけが純粋な見送りの心で臨んだのだろう。
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