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ここで、一つ質問をしたい。なに、別に難しいことじゃない。どこにでもあるようなくだらない質問だ。
「人と話すときどうすればいいんですか?」
俺は、鏡に映る自分の顔を眺めつつ、問いかけるが、質問の答えは返ってこない。魔法の鏡じゃあるまいし、答えを求めるほうがおかしいのかもしれないことはわかっていても、鏡にしか愚痴をこぼす相手がいないんだからしかたないだろう。
俺は友達がいないのだ。その事実に気がついたのが中学三年生の頃、それ以前の俺は活字中毒の読書マニアで空想の中こそが世界だったのだ。しかしだ。周りの連中がファッションだの、恋愛などの話題を持ち上げるのにまったくついていけないどころか、友達と呼べる奴が一人もいないことに気がついた時には受験シーズン、真っ只中。なんでそんな場面でと思うが、周りの連中が勉強会をするなかで俺だけなんのお誘いもなく、おまけでついていったら机の隅っこで黙々と勉強する人になっていた。
「…………俺は気がついた。友達がいない」
よく、思う。楽しく談笑する連中の脳内ってどんなになっているんだと。どうしてポンポン、話題が飛び出すんだと、俺には理解できない。だったら、友達作れよと思うだろうが、長年、空想の中で生きてきた人間は、現実の人間と話す技術が致命的に不足してしまう。使わない機能は退化すると言うけれど、言語機能も例外じゃなかったらしい。死にたくなるな。
ここで、俺はボッチだ。孤独こそ友達だと恥ずかしげもなく認められるような精神力を持っていなかった。切実に思う。友達がほしいと……だが、しかしだ。現実ってやつはちっとも上手くいかない。そのことを知るのは高校生になって最初の自己紹介の時、緊張のあまり自分の名前すら言えずに鼻血を吹き出して倒れたのだから笑えないだろう。高校生活の一番最初を、鮮血に染め上げたのだ。ただし、俺の血で、それも鼻血だ。
もし、このハプニングを笑い話に変えることができたのなら、ちょっと変な人ということでクラスメートに受け入れられただろうが、どうしていいのか、わらなくなった俺は半ば、パニックに陥り、錯乱し、醜態をさらした。
大勢の人間の目の前で引き起こしてしまった失態をどう挽回すべきかもわらなないまま、俺は陰で鼻血男とあだ名をつけられ笑われることとなった。もしも、あの日に戻れるのなら、忠告ついでにポケットティッシュを持って行けと助言したい。
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