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不幸中の幸いだったのは、クラスメートからいじめを受けなかったことだ。同じく一定の距離を置かれたけれど、つまり、彼らにとって自己紹介で鼻血を吹き出すような奴とは関わり合いになりたくないということだろう。俺だってそうだ。クラスメートの彼らを恨むことはできない。そんな傷を抱えながら始まった学校生活も六月にさしかかり、最初の一歩目から大きくつまずいてしまったがどうにかなるかもなどと言い訳していたら、当たり前のように孤独なボッチはんになっていたんだから笑えない。
俺だって何もしてこなかったわけじゃない。そうだとも、結果が出なかっただけで……。
友達を作るには勇気がいる。勇気とは自分をさらけ出せるかどうかだ。その点においてはたぶん、問題はなかった。ただし、問題はその後、友達とどういう風に関係を築くかである。趣味? 話題? 服装? etc.etc. 次々と上げていったらきりがない、そして俺が真っ先につまずいてしまったのが、話題だった。
話すことがなにもない。頭の中は常に真っ白、相手に相槌を打つだけのお人形になってしまえば、こいつ、つまんねーで誰もが俺を放置してしまう、加えて鼻血男のあだ名のせいで敬遠気味なため少ない友達がさらに少なくなるという、悪循環、泣きっ面に蜂ってこのとのだろうね。昔の人は上手いこと言うな。そうこうしているうちにクラスでの、派閥のような物が出来上がり、俺は見事に余り物になったわけだ。誰かもらって、ドナドナ!! 俺はボッチでトボトボよ。
「…………うどん、美味いな」
食堂の隅っこの席で自分のこれまでのことを思い浮かべてみても、どうにもならなさに死にたくなる。死ねないけれど、死ぬ勇気もないけれど。一人でズルズルと狐うどんを啜る。うどんの食うときってズルズル音をたててもいいんだって、思いっきり俺、ここにいるアピールじゃ、ズールズル、うどんを啜る。噛むんじゃないよ。啜るんです。油揚げはお汁が染みるまで食べたらいけませんよ。
「相席、よろしいですか?」
「どう……ぞ?」
「どうしました?」
「なんでもねーです」
「そうですか」
彼女は座った。いや、ちょっと待ってくれ。俺の隣に座るのはいい、混雑してんだから仕方がないさ。
「なぜに、ひょっとこ!? 仮面!?」
「リアクションが遅いですよ。鼻血男さん」
ひょっとこだ。口元をひん曲げてねじり鉢巻したひょっとこの仮面の少女がいた。
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