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時勢が大きく動いていることを栄太郎は知っていた。
『孝明天皇から水戸に密勅が下賜された。おそらく内容は――井伊を取り除けとのこと!』
水戸の情勢に詳しい赤川直次郎が伝えていたのだ。
(井伊が暗殺されるのではないか)
まだ、倒幕が叫ばれていない時代である。大事があるとしたら、暗殺だろうと考えるのは栄太郎に限らず、おおかたの見解だった。
動向が気になる栄太郎は、出発を先延ばしにして情勢をうかがっていた。が、萩から思わぬ手紙が届いた。
「先生の言動が過激になるばかりだ。止められるのは栄太しかおらぬ。早く、戻ってきてくれ!」
栄太郎が”義兄”と慕う入江九一からの手紙だった。
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