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つけられている、と察したのは岡崎をぬけてからだった。
歩幅がひろい栄太郎はスタスタと進み振りきろうとするが、相手は感づかれぬ距離を保ってついてくる。ときおり振り返るも、そこには、夕陽に映える松並木の梢がそばえているのみ。
(気配を消すのがうまいな。相当な鍛錬を積んでいる。追い剥ぎではない。さては、幕府の狗か――)
密勅に激怒した井伊は、尊皇攘夷派の弾圧にふみきっている。折も折、長州藩士であるから、幕府の目付に怪しまれたのだろう、と池鯉鮒(ちりゅう)につくなり宿を見つけ、早めに休息することにした。
旅装を解いた栄太郎は、襲撃にそなえ、木刀を抱えたまま目を閉じた。
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