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――この宿場町にはまだ人が多い。襲撃が目的だとしても、すぐには襲ってこないだろう。さきに、仮眠を。
何もなく夜を明かせたら、暁暗とともに宿を発ち、追跡者から逃れるつもり。
池鯉鮒の殷賑は、馬市によるものだ。いななきに耳を傾けていた栄太郎が仮睡に入るまで時間はかからなかった。
障子が辷(すべ)る音で、覚醒した。
「眠っておられましたか! これは悪いことをした。すまぬな」
と、謝るくせに、見覚えのある愛想笑いをうかべ、はばかることなく部屋にあがったのは糸屋の商人、田中平八だった。
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