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「ただしくは、岡崎に入る半日前から、アンタを追っていたのだよ。吉田君――。そういやあ、俺の名前を言ってなかったな、糸平って呼んでくれ」
「糸平?」
「名は、田中平八だ。周りのやつらは、糸屋の平八を略して、糸八っていうのさ。ところで、アンタは吉田って姓だが――吉田寅次郎を知っておるか?」
「知っている。俺の師だ」
なに? と、平八は目を丸くしてから、笑った。
「とんだ男を師にもったようだな。ハハハハ、いや、寅次郎は根がまじめな男だから、教育にむいているかもな。そう、怪訝な顔をするな。俺は、同じ塾に通っていたことがあるのさ。ははあ、旗本だと偽った理由がわかった」
「江戸で情報をつかむとき、長州人では疑われるからだ」
「寅次郎の命令だろう」
「それもあるが、俺自身、情勢を知るためだ」
「さすがは寅次郎だな。同じだ」
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