天下の志士

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   平八の顔を凝視する栄太郎は、”同じ”の意味を目で問う。 「俺と同じなのさ、寅次郎は。そう、天下を志す者としてな。しかし、寅次郎は純粋すぎる。……いや、軽忽なところがある」 「なに?」 「そう、睨むな。俺も一介の志士。志しは勤王にある。商いするのも世を欺き、幕府の事情に通じ、機きたれば財を擲って、この身とともに朝廷へ献ずる所存だからだ。それで、まわりは天下の糸平っていうのさ。寅次郎が企てていることも、ちらほら耳にしている」 「……」 「まずさきに、誤報だと伝えておこう。井伊が、京から天皇を引きずり出し、彦根に幽閉することは誤報だ。それを寅次郎は、精兵を率いて奪おうと計画しているらしいな」  
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