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断る理由はない。そして、糸八を供にしたことが有益だとわかるまで、さほど時間がかからなかった。糸八は、諸国の事情、藩政、経済、歴史に通じていた。それでときおり、
「この地で戦になったら、俺なら、あそこの山に陣をかまえる」
などといった。後年、この男の炯眼は、水戸天狗党一隊長の活躍として、青史に記されることとなる。
「幕府の改革のためには、薩摩と水戸が動く必要がある」
と、小声で語りだしたのは、伏見の船着き場における別れ際だった。
かがり火が糸八の眼を耀かせている。
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