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「そのてん、松陰先生は偉大だった! もう少し松本村におったら、こんなに弛んじゃいなかっただろうな」
「萩にいたときとは、反対のことを」
と、栄太郎は笑う。
「そりゃあ、江戸を知らなかったからだ。ハハハ……今となっては、江戸がよくわかった。秀才はいる。が、それだけだ。ことを成すのは、奇才か狂人だ。先生こそ、立派な狂人だったな」
そのころの学問は、浩瀚な朱子の書物を頭に詰め込み、抽象的な説を覚えるものが中心だった。
(こんなもん、他人と辯舌を争うだけの空理空論。藩主をたすける役に立たぬ)
と、晋作は斬りすてていたのである。忠義のはてに功成り名を遂げ、史書に己を刻もうとする晋作には、不要だった。
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