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役に立たぬ学問よりも剣術、心惹かれる詩に熱中していたとき、久坂にすすめられ松下村塾(しょうかそんじゅく)を訪れ、晋作は衝撃を受けた。
松陰の学問は時局に根ざし、『今、何をすべきか』との点に重きをおいた。実際のできごと、現在の情勢を用いて討論し、各々の才知をきそう。松陰はそこから、個々の傾向を見抜き、すすむべき方向へ導いていた。
直観と知識、辯才による論争は、剣の打ち合いのようにおもしろく、根っからの負けず嫌いである晋作は、勉学にはげみ分別が磨かれたのである。
しかし、父・小忠太は、松陰を危険視していた。大事な息子を引き離すために、藩に願い出て江戸遊学をさせたのだ。
「で、いつ萩にもどる?」と、酔眼の晋作が訊く。
「通行手形が届いたら戻ろうかと。ひとつき前に申請したが、まだ来ない」
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