第1話

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 今考えれば、と絢人は思う。あいつは俺の反応を観察していた。小劇団の代表として自身で脚本を書き、演出を担当していた平岡は、いつも他人を冷たく窺う男だった。平坦で、快感の量と質を故意に減らしたセックスが絢人にどういう反応をもたらすか、知っていた。絢人がどこまで耐えられるか図っていたのだ。  ああ、でも。今でも思い出すと身体が熱くなる。いつの間にか、平岡は絢人と二人きりで過ごすのではなく、大勢の前で絢人をいたぶることを好むようになった。その当時の絢人は平岡が絢人の愛を、献身や従順を試しているのだ、と思っていた。かわいそうな男、と。誰も心から信じられない、哀れで愛しい男。でも平岡は、絢人のことをただ金集めの道具と思っていたのかもしれない。そう思うと絢人は血が煮えそうになるのを感じる。  連れて行かれたフェティッシュ・バーでは大勢の客の目の前で目隠しと首輪をつけられ、知らない男に全身の肌が赤くなり擦り剥けてしまうまで鞭打たれた。  平岡に呼びつけられたラブホテルのパーティルームでは、平岡はおらず、その代り見覚えのある男たちにかわるがわる犯された。平岡の劇団のパトロン達だった。  それでも。    ふらふらになって男達による輪姦の場所から帰ってきた絢人を、平岡は泣いて抱きしめた。その晩はとても優しかった。でも次の夜、ひどく酔っ払った平岡は絢人に「お前も楽しんだだろ?」と言い放った。絢人は返事をしなかった。  しかし、平岡から逃れることはやっと見つけた自分の居場所を手放すことになる。絢人は恐かった。未練もあった。自分の可能性を信じられた唯一の場所から、逃げることになる、と。  シャワーを浴びなければ、と思い、絢人はのろのろと立ち上がった。全身がひどく重たい。自分が消耗しているのがわかる。
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