第1話

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「秀太、どうしたの?」 黙っている俺に近づく千晃。 「あれって、伊藤さん?」 通り過ぎる生徒の声で我に返って、慌てて自分のブレザーを千晃の頭にかけた。 「なっ、何??」 不可解な俺の行動に戸惑ってる。 「顔、見られたく無いんだろ。このままトイレ行け。」 「あ、ありがとう。」 そう言って、ブレザーの隙間から俺を見た。その瞳を見て、顔が熱くなるのを感じて慌てる。 「早よ行け!」 千晃の身体の向きを変え、背中を押した。 「わかってるよぉ。」 小さな背中は、小走りでトイレに入って行った。 やべー。何照れてんだ俺…。 ブレザーを貸して寒くなったはずが、顔の熱で寒さを感じなかった。 なんとなく、トイレの前で千晃を待っていると、意外に早く千晃は出て来た。 「おぉっ、待っててくれたの?」 居るとは思わなかったのか、驚いた顔の千晃はいつもの千晃だった。 化粧ってすげー…。 「秀太?さっきからおかしいよ?大丈夫?」 笑いながら、ブレザーを差し出して… 「ありがと。」 そう言う千晃にドキッとした。 ヤバいっ! 顔が熱くなるのを感じた俺は、千晃の手からブレザーを取って、急いで着る。 「戻るぞ。」 それだけ言って、千晃の返事は聞かず歩きだす。 「変な秀太。」 そう呟く千晃の声が聞こえた。
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