第9話

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   神代の昔、本当に七夕神が人間の女を孕ませたことがあったかどうかは、定かではない。  だが、隼人の知る限り、司祭は七夕神の“ふり”をする役目を担っている。  祖霊舎でひとり眠り込む女を、司祭の家の男は暗闇の中で犯してきた。  ──それが、鬼首哭で繰り返されてきたおぞましい歴史だ。  村人の誰も、そんな真実は知らない。知っているのは吾妻と、峰村の者だけだ。  本当なら、零斗だけに口伝されることだった。  だが彼は、鬼首哭のことをきれいさっぱりと忘れてしまって、妙な風習があるだけの寒村だと思っている。  だから、節子から紫に伝えられたのだった。  おそらくは、牽制もあったのだろう。  隼人を慕う紫の態度が普通でないことは、見ている人間なら誰でも判ることだ。 “峰村の男だけはだめだ”と。そういう牽制だ。 .
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