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璃胡と朋成が暮らす邸は周囲の人々から『桔梗庵』と呼ばれていた。
決して広くなく、豪華でもないその邸の周りには、笹の葉が生い茂り、涼やかな鳥の声が響いていた。
「長旅、ご苦労様でございました」
邸に入ると、璃胡が美しい所作で深々と頭を垂れた。
「どうぞ頭を上げてください」
頼爾が手を取り囁いた。
「…相変わらずお美しい」
璃胡の白く細い指を、頼爾の大きな手がゆっくりとなぞる。
「…頼爾殿は相変わらず手が早いですなぁ」
快活とした声に振り返ると、朋成が困ったように笑っていた。
「手が早いとは人聞きの悪い。少し人より距離が近いのは自負しておりますが」
ははは、と笑い合い、頼爾と朋成は握手を交わした。
「お久しぶりです、頼爾殿」
「ああ、元気そうで何より…日焼けもなかなか似合うではないか」
「まぁ、毎日楽しくしていますよ。おかげさまで」
屈託なく笑う朋成の顔は幸せそのものだった。
信爾はちら、と璃胡のほうを伺ったが、こちらもまた幸せそうに笑っている。
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