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それは、一通の文から始まった。
「兄上、御用とは何です?」
「…文が届いたんだよ、璃胡殿から」
「璃胡殿から?…確か今は、安居殿とご一緒に山の麓に住んでいるとか…」
二年前。妖の一件に巻き込まれ、心を病んでしまった璃胡。彼女を想い、ともに人生を歩むことを決めた安居と今は山の麓で療養している。
「そう。なかなか長閑な暮らしをしているようだよ。…あの璃胡殿が、畑仕事を少ししているようだ」
「それは…意外ですね」
「ただ…」
「ただ?」
カサ、と紙擦れの音がした。珍しく、頼爾が言い淀む。迷うような悩むような、複雑な顔をして。
「…犬を、拾ったそうだ」
「はぁ?」
苦笑して、文を信爾に渡す。目を通した信爾もまた、眉間に皺を寄せた。
「これ…本当に犬ですか?」
文にはこう書かれていた。
『時折、目の色が変わる不思議な犬と一緒に居ります』
『よく人の言葉を理解しているようです。とても愛らしく、お利口ですが、時折ひどく不安そうに震えて居ります』
最後にこう綴られていた。
『紅は私たち夫婦の宝です。この子の不安を取り除いてあげたい。その為にもどうかお力をお貸し下さい』
「紅…」
「犬の名前だろう。…なぁ、妙な話だろう?」
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