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「これで大体かな…」
急ぎ荷物をまとめ、旅支度を済ませる。何気なく庭を見ると、小さな池の鯉が口を開けていた。
「ああ、お腹が空いたのか…よし」
信爾が鯉に餌をやっていると、どこからか甲高い鳥の鳴き声と、羽ばたく音が聞こえた。
空を見ると、やはり白い美しい鷺が羽根を広げて舞っていた。
鷺は旋回をすると人の形に変わっていく。
白い素足に朱い下駄が妙に艶かしい。身体こそ幼いが雰囲気で妖と分かる、ただならぬ色香。
「暇なんだね?鯉に餌やりなんてさ」
桃色の唇からは憎まれ口しか聞いたことがない。
「暇じゃないよ。…珀露」
珀露は軽い足取りで信爾の近くに駆け寄り、その両肩に手を添えた。
「旅に出るんでしょう?…その前に、ちょっとだけ」
「!あっ…珀露、い、いま…?」
信爾が驚き、頬を赤らめる。珀露はそれを見て不満そうに口を尖らせた。
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